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女の子は一度は言うと言うあの名台詞。
一家そろってごー。
ことの発端は、長女にして末の子、クーリオが婚約したことだった。
「クーが婚約だなんて……!!」
「あらあら。今度連れていらっしゃい」
一家団欒の席で豪泣きするアステリアに、のほほんとしつつ、案に連れて来いと言っているトレーネ。
当の本人は、珍しく時間があったらしく、タンジェリンの作ったケーキを食べつつ頷いている。
「で、どんな子?」
「可愛くてすっごくかっこいいのv」
「あらあら。年は?」
「ラルと一緒v」
「あらあら」
「ラルも会ったことあるよv」
「あらあら」
おっとり微笑むトレーネだが、傍観者に徹していたタンジェリンには、「早く言えよv」と言う笑顔の脅しが見えていた。
「それにしてもクーの婚約者がラルと同じ年なんてね」
紅茶のカップを取ってくすくす笑うトレーネに、クーリオはきょとんと首を傾げた。
「ラルと同じ年だと何かあるの?」
「そうね……。クーが2歳か3歳の時だったかしら……。近所に住んでた子が「大きくなったらパパとけっこんするのーv」なんて言いだして、それをきいたクーリオったら……」
「あぁ、あれか……。……父さんがうざかったな」
「……」
いまだに豪泣きしているアステリアを一瞥して、トレーネは言葉を続けた。
「「ぼくおおきくなったらラルとけっこんするーv」って言いだしたのよねぇ」
ころころと笑うトレーネの言葉に、クーリオはきょとんと隣に座っていたラリマーを見上げた。
「そうなの?」
「……子供の……言うこと……だよ……。……でも……普通は……父親を……指名する……らしい……」
長く伸びた前髪越しに、だけど真っすぐクーリオを見つめて言うと、クーリオはそうなのか。と納得していた。
そして今だ豪泣きしているアステリアを見て、首を傾げた。
「なんで僕はラルだったんだろうね?」
その質問に答えたのはタンジェリンだった。
「簡単な話だ。お前を育てたのはほぼ俺とラル。特にお前が物心付く頃からはラルがメインでお前を育てたからだ」
クーリオが生まれた頃、アステリアとトレーネは多忙だった。
トレーネだけは一年ほど産休を取っていたが、アステリアは休日などなくアクスヘイムを駆け回っていた。
そんな両親に代わり、幼いクーリオを育てのはタンジェリンとラリマー。
特にタンジェリンが頑張っていた。
クーリオが1歳の時、タンジェリンは9歳。9歳の子供が、1歳の子供を育てたのだ。
「あの頃は大変だったな……」
当時を振り返り、思わず遠い目をしてしまうタンジェリン。
「そうね。あの頃はアスは家にいないわ私も朝早くから夜遅くまで帰れないわ、タンジェは学校だしラルはまだ怪我が治りきってないわで……。……良くここまで立派に育ったわね」
「うん。その話きくと僕もそう思う」
タンジェリン奮闘期間。
そう称しても可笑しくない期間。
朝トレーネが出て行く前に起き出し、朝の挨拶をしてトレーネを送り出し、自分の朝食とラリマーの流動食、クーリオの離乳食を作り、早めに朝食。
その後よちよちと起きてきたクーリオを抱きかかえ、ラリマーを起こし、クーリオに朝食を食べさせる。
朝食を終えたらクーリオを着替えさせ、学校に行く準備。
クーリオをおんぶ紐でおんぶし、ラリマーと手を握って登校。
ラリマーに授業を受けられるか聞いて、大丈夫ならラリマーと別れてクーリオを保健室に預けて教室へ。無理ならラリマーとクーリオを保健室に預けて教室へ。
ラルが熱を出したりクーリオが泣きだして、手のつけられない状態になったら授業中でも構わず抜け出して保健室へ。ちなみに先生公認。
昼食は急いで食べ、食堂のおばちゃんに無理を言ってラリマーとクーリオの分を作り、保健室で二人に食べさせる。
クーリオがお昼寝に入ったら速効教室に戻り授業を受ける。
ちなみに受けてない時間の分は友達からノートを写させて貰う。
授業終了後、ラリマーの教室に向かい、宿題等のプリントを受け取り保健室へ。
ラリマーが一日熱も出さなかった場合、ここでラリマーを連れて行く。
保健室でクーリオを迎え、朝同様におんぶして帰宅。
帰宅途中、夕飯と朝食の材料を購入。三人で行くと安くして貰えるらしい。
帰宅後、ラリマーにクーリオを任せ、夕飯作りとお風呂の準備。
先にラリマーとクーリオに食べさせ、お風呂に入れる。タンジェリンの夕飯はこの間。
クーリオがお風呂からあがると着替えさせる。
子供たちの部屋でクーリオを遊ばせ、寝るのを待つ。この間、ラリマーは宿題。
ちなみに大体ラリマーが先に熱でダウン。
クーリオがうとうとし始めたら布団の上に連れて行き、添い寝。
熟睡したら、ラリマーのスピカであるキリエに二人を任せ、タンジェリンのスピカであるステラを連れて台所へ。
トレーネかアステリアが帰ってくるまで宿題と予習。
大体途中でクーリオがぐずるので、部屋に戻ってあやす。
トレーネかアステリアが帰ってきたら夕飯を用意して、今日あったことを報告して就寝。
「……俺、頑張った……! でももう二度としたくない!」
「……お疲れ……?」
こうして振り返ると、凄い9歳児だ。
「まぁ、お前が物心つく頃にラルが普通に生活できる程度まで回復したからな。お前の面倒はラルに任せたら、うっかりお前にとって父親扱い出来る存在はラルになってしまったわけだ。……まぁ、その時も父さんは今みたいに豪泣きしたけど」
仕事ばっかで家庭を顧みなかったからな。と皮肉を込めて言うと、クーリオは苦笑するしかなかった。
「まぁ、あの頃が働き盛りだったから仕方ないと言えば仕方ないけどね」
「クーが生まれた時、父さん28だったっけ?」
「えぇ。私は23歳ねv」
「普通はそれぐらいの時に一人目が生まれるはずなのに……」
「タンジェは14歳の時に産んだものねぇ」
「うん。それはもう覆しようがないから良い」
疲れたようにタンジェリンが言うと、トレーネは笑いながらアステリアを泣きやませに行った。
「お父さんとお母さん、相変わらずだねv」
「……」
ほえほえと笑うクーリオと、こくりと頷くラリマーを見ながら、タンジェリンは小さくため息をついた。
クーリオがラリマーと結婚すると言い出した時、豪泣きするアステリアと笑うトレーネの奥でこっそりタンジェリンがため息をついていたのを、誰も知らない。
(ラルとクーは本当は従兄妹だから、結婚しようと思えば出来るんだよなぁ)
生い立ちと経験故に、当時から老成していたタンジェリンの、心の中の呟きが現実の物とならずに済みそうで、安心するべきか、それともまだ幼いクーリオがすでに婚約していることを嘆くべきか、苦労性のタンジェリンは暫く頭を抱えることになりそうだ。
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