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天体と占者と大樹の夢

マナリエル兄妹の呟き。 スピカがもっふもふしてます

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タンジェ編最終話ー!
先に言っとく。



なげぇ……(ごふ
 


 




 タンジェリンが目を覚ました時、聞こえてきたのは大勢のざわめきだった。
「うるさい……」
 目覚め切っていないまま呟くと、人の気配としてはやけに儚い気配たちが、タンジェリンを見たのが分かった。
 不機嫌そうに起き上がると、タンジェリンの周囲には、多くの人がタンジェリンと眠るラリマーを囲むように立っていた。
 彼らはタンジェリンを見て--正しくはタンジェリンの右目を見て、嬉しそうにタンジェリンに声をかける。
『星の子が目覚めたわ』
『まぁ。今回の星の担い手はなんて可愛らしいの』
『これはまた、小さい導きの星だな』
 始めて見る人達なのに、親しげにタンジェリンに声をかけてくる。
 今回父親の本家に来て、そんなことは多々あったので知らない人に親しげに、あるいは傅かれるのは問題ではないが、今タンジェリンに声をかけてくる人達は、全員体が透けていたのだ。
 人ではない、霊体とよばれる存在。
「な……なにもの」
「彼らに応えてはいけない」
 震える声を止めたのは、アステリアだった。
「彼らの声を聞くな。彼らに応えば、お前は彼らに狂わされる」
 アステリアの言葉に霊体たちは不服そうにしているが、見えていないのか、アステリアは気にした様子もない。ただ、タンジェリンを抱きしめ、背中を優しく叩いた。
「父さん……」
「死した者たちが、見えるようになったな?」
 耳元で囁かれる言葉に、タンジェリンは小さく頷く。
 ラリマーが目覚めかけているのか、小さく身動ぎをしている気配がする。
「今のお前では、まだ彼らを支配出来ない。今は……彼らの存在を無視しろ」
「無視しろって言われても……」
「無視だ無視。朝食食べたらどうにかするから、今は気合いで無視」
「無茶苦茶だよ」
 呆れたように呟くと、アステリアはつけていたピアスを片方外し、タンジェリンの手の上に置いた。
 その瞬間タンジェリンの耳に聞こえるざわめきか、感じる気配が消えた。
「え……? 消えた!?」
 驚いたように周囲を見渡すが、部屋にはタンジェリンとアステリア、それにもぞもぞしているラリマーの姿しかない。
 霊体達の気配は一切なかった。
「一体何が……」
 茫然としたように周囲を見渡し、アステリアに渡されたピアスを見る。
 いつもアステリアがつけてる、ラピスラズリと水晶の、何の変哲もないピアス。
 それが、霊体達の気配を、声を消した?
「あんまり長時間は持たないけど、暫くはそれが結界代わりになる。失くすなよ?」
「あ、うん……。有難う」
 茫然としたまま呟くと、目を覚ましたラリマーがタンジェリンに抱きついてきた。
 ぱっちりとした深紅の瞳がまっすぐにタンジェリンを見上げている。
「おはよ」
「あ、おはようラル」
「おとーさんもおはよ!」
「おはよう。朝ごはんにしようか」
「うん!」
 どこまでも無邪気なラリマーの笑顔を見て、タンジェリンはほっと息をついた。

 朝食を食べ終えたタンジェリンは、アステリアに連れられ、祖父の部屋に来ていた。
 多くの書物と、天体に関する道具が所狭しと並んだ部屋は、宝箱の様に興味深い。
「なるほど……」
 タンジェリンがきょろきょろと部屋を見ている間にアステリアから事情を聴いた祖父は、本棚から一冊の本を取るようアステリアに告げた。
 古びたその本は、同じ本棚の中にある本と比べ、酷く薄かった。
「それに、全てが書いてある。タンジェリンを守りたいなら、あの子が大人になるまで、あの子を封印するしかないが……儂はそれが良いかどうか、判断できん」
「父さん……」
「選ばせろ。あの子は既に我が一族の長だ。長の選択に反論する者はおらん」
 その言葉に、アステリアは静かに目を閉じた。
「分かった。タンジェに選ばせるよ」
 その言葉に満足したのか、祖父は咳き込みながらも、タンジェリンを呼んだ。
「何?」
 ベッド脇にきたタンジェリンの頭を撫でると、タンジェリンはきょとんして祖父を見た。
「じーさん……?」
「お前には酷なことをした自覚はある。すまんな」
「何言ってるの?」
「星読みとなったお前は、死者を安らかに眠らせることも出来るし、支配することも出来る。それゆえに、お前は多くの存在に狙われる。儂に残された時間はない。気をつけろ。お前が殺されることはないが、お前の大切な者が殺される可能性はある。星読みと言うことを隠し、力をつけろ」
「じーさん何言ってるんだよ!」
「星読みに出来ることはアステリアに託した本に書かれている。足りなければこの部屋の物は全て自由に使え。この部屋はお前の物だ。分からないことはアステリアに聞け! それも星の声を聞く者だ!」
「落ち着けじーさん! 倒れるぞ!」
 興奮気味に言葉を紡ぐ祖父を、タンジェリンは落ち着かせようと必死になるが、祖父は構わず言葉を紡ぎ続ける。
「儂はもう死ぬ! だが我が孫タンジェリンに害為す者は許さぬ! 一族の者も、そうでない者も関係ない! 星よ我が声を聞け! 幼き汝の代弁者を守るが良い!!」
「じーさん!!」
「父さん!」
 カッと目を見開き、ベッドに倒れこむ祖父に、タンジェリンとアステリアが駆け寄る。すぐに部屋の外にいた医者もやってきて、患者の容体に悪いから。とタンジェリンとアステリアを追い出した。
 部屋から追い出された二人は、トレーネとラリマーの待つ部屋へ帰った。

 部屋に戻るとすぐにラリマーが抱きついてきたが、アステリアは本を読むため奥に行ってしまった。
「アスったらどうしたのかしら?」
 頬に手をあててトレーネが呟くと、タンジェリンは先ほどのことを簡単に話した。
「あら。じゃぁタンジェリンの力を封印するための方法を探してるのかしら?」
「多分……」
 タンジェリンは精神的にも、学力的にも同じ年頃の子どもより大人びているが、専門書などはまだ読めない。
 正しくは、読んでも理解出来ない。
「まぁ、あぁなったら暫く出てこないわ。その間お茶でもしましょう」
「おちゃちゃー!」
 嬉しそうにラリマーがトレーネに纏わり付くと、タンジェリンは大きく息を吐いた。
 今タンジェリンに出来ることはない。
 そう判断し、二人に倣ってお茶の席についた。
 トレーネとタンジェリンは紅茶を、ラリマーはココアを飲んでいると、奥からアステリアが本を持って、思いつめたような表情で戻ってきた。
「大丈夫? 顔色悪いわよ?」
「大丈夫だ。それより……タンジェ」
「何?」
「お前が選べる道は二つ。一つはこのまま星読みとしての力をそのままに過ごす。もう一つは星読みとしての力を封印して過ごす。どっちも一長一短だ。好きな方を選べ」
 告げられた言葉に、タンジェリンは双方の長所と短所を聞いた。
「まずそのままのほうだが……お前は今朝の光景をどう思った?」
「最悪」
 躊躇うことなく告げた息子に、言い様のない頼り甲斐を感じつつも、アステリアは言葉を紡ぐ。
「あれがずっと続く。どこに行こうが、何をしていようがお構いなしだ」
「最悪だね」
「あぁ。実際、年若くして星読みになった者の中には、あれに耐え切れず狂った者も存在する」
「年を取ってから星読みになった人は?」
「年を取るとあんまり動じなくなるらしい。狂った奴は少ない」
「ふぅん……。で、二つ目の方は?」
「星読みとしての力を封印すれば、今みたいに彼らの声は聞こえないし、姿も見えなくなる。ただし、封印している限り、右目も見えなくなる」
 まだ6歳の子供に、狂う可能性もある道か、右目の見えない道かを選ばせるのは過酷だと言うことは重々承知していた。だけど、これはタンジェリンが選ばなくてはいけない。そしてタンジェリンは、迷うことなく選んだ。
「じゃぁ、封印してよ」
「良いのか?」
「良いよ。これ以上、可笑しくなりたくない」
 6歳の子供が浮かべるには相応しくない、枯れた老人のような微笑み。
 そんな表情をさせたいわけではないのに、ラリマーのように年相応でいさせたいのに、運命がタンジェリンから子供らしさを奪う。
「僕はね、守りたいだけなの。それなのに、僕が狂ったら元も子もないよ」
 愛しげにラリマーの頭を撫でながら言うと、アステリアはタンジェリンの癖のある髪の毛を撫でた。
「お前がラルを守りたいように、俺もお前を守りたい。でも、この件については何もできない……。ごめんな」
「父さんが謝ることじゃないよ……。それよりさ、早くしよう?父さんから借りたピアスの力、弱くなってきてる」
 決まり悪げに言うと、トレーネがタンジェリンを抱きしめた。
「アスの一族のことだから、私に口出すことは赦されてない。でもね、私はタンジェのお母さんなの。本当はタンジェを星読みになんてさせたくなかった」
「母さん……」
「アスの一族のために、タンジェが犠牲になるなんて嫌なの」
 それは紛れもないトレーネの本音。
 覆すことのできない運命に、足りない力が腹立たしい。
「……大丈夫。一族の重責や、運命なんかに負けないから」
 だけど、不屈の精神がある。
 守りたいものがある限り、人はいくらでも強くなれる。
「だからね、泣かないで?」
 新緑の瞳から零れ落ちる涙を拭くと、トレーネは強くタンジェリンを抱きしめた。
「おかーさん、いたいの?」
 不安そうにラリマーが見上げると、トレーネは「大丈夫」と涙を拭いて笑った。
 そしてアステリアを見て、しっかりと頷く。
「アスの一族にも、運命にもタンジェリンを奪わせないわ」
「俺も同感だ。そのために、まずは死者狂いからタンジェリンを守る」
「えぇ、お願いね。……タンジェも、負けないで」
 柔らかな頬にキスをすると、アステリアはタンジェリンを連れて部屋を出た。
 ラリマーも一緒に行こうとしたが、トレーネに抱きしめられ、不服そうにしている。
「アスとタンジェが帰ってきたらおうち帰るの。だからね、帰る準備しようね」
「おうちかえるの?」
 ぱっと笑顔になるラリマーを見て、トレーネも自然と微笑んでいた。
「そう。おうち帰って、ゆっくりしようね」
「うん! おうちかえったら、セイとルイとあそぶのー!」
「そっかぁ。じゃぁ早く帰る準備しよっか」
「はーい!」
 とたぱたと部屋の奥に走って行くラリマーを見送り、トレーネはカップを洗い始めた。
 二人が帰って来たら、すぐにでも四人で帰るために。
 そして帰る準備が出来て暫くしてから、アステリアと、アステリアにおんぶされたタンジェリンが戻ってきた。
「お待たせ」
「お疲れ様。帰る準備はもう出来てるわ」
「悪いな」
「ううん。それよりタンジェは大丈夫?」
「大丈夫だよ。右目が見えないから、距離感つかみにくいけど……」
 距離感を測るためにぺたぺたと色々な物に触りながらタンジェリンが言うと、アステリアは祖父に挨拶として来ると言って部屋を出た。
「そうだ。今日のお昼何が良い?」
「オムライス! ぼくオムライスがいい!」
「僕はなんでも良いよ」
「そう? じゃぁお昼はオムライスねv」
 その言葉に嬉しそうにラリマーがはしゃいでいるうちに挨拶を済ませたアステリアが戻ってきた。
 祖父の容体は安定しているようだと告げ、アステリアは微笑んだ。
「それじゃ、帰ろうか」
「おうちかえるー!」
 今にも走りだしそうなラリマーの手を慌ててトレーネが握り、慣れない視界の狭さに戸惑っているタンジェリンの手をアステリアが握る。
「じゃぁね」
 小さく呟いて、タンジェリン達は部屋を、一族を後にした。


 

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